社員が業務でChatGPTなどの生成AIを使い始めた。便利さは分かるものの、お客様の名前や見積もりの金額まで入力していないか気になる。一方で、利用を禁止すれば、個人のスマホでこっそり使われるかもしれない。こうした相談が増えています。
商工中金の調査(2026年3月公表)によると、中小企業の64.9%が「会社としては導入しておらず、使うかどうかは個人の判断に任せている」と回答しています。社内のルールがないまま、社員それぞれが使っている会社が多い状況です。
この記事では、専任の担当者がいない中小企業に向けて、生成AIの社内利用ガイドラインの作り方を解説します。勧めたいのは、分厚い規程を用意することではなく、A4・1枚から始めることです。そのまま写して使えるサンプルも掲載しています。
生成AIの社内ガイドラインが必要な理由
ルールを決めずに利用していると、次のような事態が起こりえます。
- お客様の個人情報や取引先から預かった資料を、そのまま入力してしまう
- 入力内容がサービスの提供会社でAIの学習に使われる設定になっているのに、そのまま利用している
- AIが作成した文章や数字を、確認せずにお客様へ送ってしまう
- 何か起きても、誰が何のために使っていたのか分からない
個人情報保護委員会は、個人情報を含む内容を生成AIサービスに入力する場合の注意喚起を公表しています(2023年6月2日)。まず、入力が利用目的の範囲内に収まるかを確かめる必要があります。また、本人の同意を得ずに個人データを入力し、回答を出す以外の目的で扱われると、法律に違反する可能性があります。このため、入力した個人データが機械学習に使われないことなどを十分に確認することが求められています。
A4・1枚の生成AI利用ガイドラインに書くこと
| 項目 | 書くことの例 |
|---|---|
| 使ってよいサービス | 利用できるのは、会社が契約した法人向けのサービスだけ。個人のアカウントや無料版を仕事に使わない |
| 入力してはいけない情報 | お客様の氏名・住所・電話番号、取引先から預かった資料、パスワード、公表前の価格や図面 |
| 出力を使うときの確認 | お客様に出す文章・数字・事実は、必ず人が確認してから使う。計算をAIに任せない。画像や文章についても、既存の作品に似ていないかを確かめる |
| 確認する人 | 外に出す文書は、作成者とは別の人が確認する(社長、部門の責任者など) |
| 困ったときの連絡先 | 誤って入力したり、誤った内容を送ったりしたと気づいたとき、すぐに連絡する相手 |
最後の項目には、「すぐに報告した人を責めない」と添えておきましょう。報告の遅れを防ぎやすくなります。

生成AI利用ガイドラインのサンプル(A4・1枚)
上の5項目をもとに、社員へ配る文面をまとめました。〔 〕内を自社に合わせて書き換えて使ってください。
生成AIの利用ガイドライン(〔会社名〕・〔制定日〕)
- 使ってよいサービス:利用するのは〔会社が契約したサービス名〕だけとします。個人のアカウントや無料版を仕事で使うことはしません。
- 入力してはいけない情報:お客様の氏名・住所・電話番号、取引先から預かった資料、パスワード、公表前の価格や図面は入力しません。判断に迷う場合は入力せず、〔確認する人〕に尋ねます。
- 出力を使うとき:お客様や社外に出す文章・数字・事実は、人が必ず確認したうえで使います。合計や税額などの計算をAIに任せることはしません。
- 確認する人:社外に出す文書は、作成者とは別の〔社長/部門の責任者〕が確認します。
- 困ったとき:誤って入力したり、誤った内容を送ったりしたことに気づいたら、すぐに〔連絡先〕へ知らせます。すぐに報告した人を責めることはありません。
このガイドラインは〔半年〕ごとに見直します。使ってよいサービスの追加を希望するときは、〔確認する人〕に相談してください。
見直す時期を明記しておけば、新しいサービスが登場した際にも、ガイドラインが古いままになるのを防げます。
業種ごとの「入力してはいけない情報」の例
一般的な表現だけでは、現場で判断しづらいことがあります。自社の業務に即した具体例を盛り込みましょう。
| 業種 | 入力してはいけない情報の例 |
|---|---|
| 工務店・建設 | 施主の氏名・住所、図面、現場の写真(表札や車のナンバーが写ったもの) |
| 卸売・製造 | 取引先ごとの単価表、未発表の製品の仕様、取引先から秘密保持を求められた資料 |
| 不動産 | 入居者や売主の個人情報、契約書の原本 |
| 士業の事務所 | 依頼者の情報や相談内容(守秘義務があるため、利用する場面そのものを限定する) |
| 飲食店・美容室 | 予約客の氏名・電話番号、カルテや施術の記録 |
お客様の情報を扱う業務で、どうしてもAIを利用したい場合は、会社としてサービスを選びます。個人のアカウントは使わず、入力が学習に使われない契約と設定のサービスを選んだうえで、扱う範囲を決めてから利用します。
ルールを作るときに参考になる資料
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)
- 日本ディープラーニング協会(JDLA)「生成AIの利用ガイドライン」:組織での利用に向けたひな形を無料で公開しています。入力時と出力を使う際の注意点が整理されています
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月31日):AIを利用する側の事業者が注意すべきことも含んでいます
- 文化庁「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月):AIで作ったものでも、既存の作品に似ており、その作品をもとにしたと認められる場合には、著作権の侵害になりうると整理されています
ひな形をそのまま採用すると、自社の規模には大きすぎる場合があります。「漏れがないかの点検」にひな形を使い、社員に配布するものはA4・1枚にまとめるのがおすすめです。
まとめ:生成AIの社内ガイドラインは、短く・具体的に
- 禁止するよりも、使ってよいサービスと入力してはいけない情報を定める
- 入力が学習に使われない設定になっているか、会社として確認する
- 外に出すものは、人が必ず確認したうえで使う
- 業種に合った具体例を記載し、困ったときの連絡先を決めておく
社内のAIルールづくりやサービス選びについては、無料相談(30分)でお聞きします。ルールを定めたうえで、業務でAIを安全に利用するための仕組みを作ることもできます。
参考(2026年10月15日確認):個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」/JDLA 資料室/AI事業者ガイドライン(第1.2版)/文化庁「AIと著作権」/商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査」
